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『双頭の悪魔』有栖川有栖

2013/04/27 ばんどら

1.著者紹介

鮎川哲也氏の推薦を受け、1989 年デビュー。新本格を代表する作家のうちの一人である。(新本格ムーヴメントのきっかけとなった綾辻行人『十角館の殺人』が出版されたのが 1987 年。) エラリー・クイーンを敬愛しており、美しいロジックや読者に対してもフェアに提示された手がかりからの論理的推理にこだわっている。
著書は大きく三シリーズに分けられる。大学生・江上二郎を探偵とする「学生アリスシリーズ」、犯罪社会学者・火村英生を探偵とする「作家アリスシリーズ」、探偵志望の高校生の成長を描く「ソラシリーズ」。本作は「学生アリスシリーズの三作目にあたる。
私にとっては色々とお世話になった思い出が多く、ついつい贔屓してしまう作家さんでもあります。

2.全体の個人的感想

江神さんが登場するだけで満足。物語としてもミステリとしても私にとっては文句なしに面白いです。自分の中でのミステリベストの五本指以内には入る作品。中学生のころに有栖川さんは読み漁りましたが、この作品が一番好きです。とにかく好きとしか言いようがなくて困ります。タイトルが「人形ガーデン」にならなくて本当に良かった w キャラは火村さんのモデル・志度と八木沢が好きです。もちろん一番は江神さんですけども。

3.ミステリとしての考察


きれいに図にまとまってくれました。この構図を証拠と証言をもとに、江神さんが一つ一つ着実に、丁寧に暴いていく最後の推理は本当に面白かったと思います。また、木更村側のスマートな江神さんの推理と、夏森村の EMC メンバーのみんなで議論を戦わせながら推理していく様子の対比も私は好きでした。

アリアドネの糸手繰り(笑)
<八木沢による小野殺害>
・香水の利用
�〇狢里茲蠅發泙裟茲暴蟷�品に香水をかけた。(P.491)
�∋狢里判蟷�品で香水の巻き方が違う。(P.491)
→所持品に香水をかけることが目的、死体にかけたのは目的の隠蔽のため。(P.492)
→鍾乳洞の中で小野を確実に尾行するため、香水を利用。小野が常に鍾乳洞へ行く際に杖代わりに持っていく傘(P.196)に香水をかけた。小野の無嗅覚症(p.432)を利用。
→傘にかけた香水の残り香を隠蔽するため、他の二種類の香水を庭にまいた。 (P.500〜)
・死体の位置…八木沢にとっては交換殺人の相手であった香西を容疑から外すため。(P.658)
・右の耳を切り取った理由…香西は殺人成功の証拠を室木に渡す必要があったため、八木沢をどうにか説得して切り取らせた。(P.651)
・小野は香西にとっては許しがたい相手(P.657)、室木にとっては遺産を横取りされる可能性のある相手。(P.647)


<室木による相原殺害>
・呼び出しメモ
�.検璽鵐困留Ε櫂吋奪箸�ら発見(P.526)
�▲▲螢垢琉�戯書きの跡(P.552)
→手紙を書いたのは犯人、密会時間を 9 時だと思わせようとした。
ポストを利用して、内密に手紙をやり取り。(P.537〜)
・八木沢は香西が交換殺人の相手であると思っていたため、夏森村との行き来ができないときに相原が殺されたと知り驚いた。(P.419、654)
・八木沢の動機は由衣の写真の件。(P.646)
・ちなみに、メモをよく見ると確かに「7」に線が付け足されて「9」になっているように見える。(P.379)


<香西による八木沢殺害>
・マリアは物音(八木沢の激しいピアノ)を聴いていない(p.664)
→犯人は三時半より早く部屋に入り、待ち伏せしていた。
・「ミツル」香水は殺害後にかけられた。(P.618、668)
→おそらく犯人は小野殺害と同一犯だとみられることに期待しての行動。(P.666)
→香西の証言に矛盾。(P.667)
・江神に小野殺害の真相を見破られたことを知ってしまい、保身に走るため殺害。(P.660)

※ページ数はすべて文庫版のものです。

4.物語としての『双頭の悪魔』

簡単に言うなら、傷心のマリアがある種の理想宮である閉ざされた村にこもって殺人事件に遭遇して、また現実に帰っていく話でしょうか。私はこの作品の中にある雨の表現がすごく好きです。まずは文庫版 P.18 からの引用。

私は雨が好きだ。霧しぶくような氷雨。しとしとと降り続く六月の雨。(略)濡れて光る街路。そんなどれも好きだ。でも、一番好きなのは、雨の最後の一滴が空から落ちた後に訪れるもの――雨上がりだった。

そう、雨が好きなのは、それがいつかやむと判っているからなのだ。


そして、最後のところ。P.683 より。

私は祈る
この歌が終わる時に
雨よ、少し降っておくれ


この二つの文章を照らし合わせると、最後のマリアの心境がより味わえるような気がしています。
上で引用した P.18 の文章は、私の中ではある意味学生アリスシリーズの良さを端的に表す文章でもあったりします。以前有栖川さんにインタビューさせていただいたときに、一番印象に残った話が、学生時代っていうのはいつまでも続かない、終わりがあるからいいものだ、だから学生アリスシリーズは作家アリスと違っていつかは終わらないといけない、っていうお話でして。それに通じるものを感じました。