色目夏 |
一月一日、元旦の午前八時。 布団から上半身を起こして、寝ぼけたまま部屋を眺めると、 宇宙人が、こたつでみかんを食ってた。 |
LeC | 寝惚けた頭にいきなり「!」が浮かぶが、声には出さない。いや、むしろすくみ上がってしまって、声も出せなかった。念のためほっぺたを思いきりつねってみる。……痛あッ!――とりあえず夢ではないようだ。おそらく赤くなったほっぺたをさすりながら、クリアになった頭で考える。――いや、でもしかし、いくら頭がクリアになったところで、この事態を容認できるはずもない。とりあえず身の危険に備えて、手元にあるものを武器に――って、これはウォークマンじゃないか。 |
色目夏 |
「明けまして、おめでとうございます」 あたふたしている間に、向こうから挨拶されてしまった。それも流暢な日本語で。日本人として、私は少し恥ずかしくなった。 「ひどい顔ですよ。顔を洗うのがいいと思います」 そう言われたので、私は洗面所に向かった |
春菊 |
洗面所で鏡を見て、私の頭にまたもや「!」が浮かぶ。 ひどい顔どころではない。洗ってどうにかなるものか。 私の顔は |
色目夏 |
史上まれに見るほど横に細くなっていた。ダイエット成功か?それともナナフシの呪いか? …ちがう!これはただのマジックミラーだ。クリスマスに彼氏からもらったものだ。彼氏? そういえば私の彼はどこだ?年末は一緒に過ごしたはずなのだが。 |
LeC | 「くすくすっ」後ろを振り返ってみると、例の宇宙人が口に手を当て、してやったりといった表情で忍び笑いをしている。取り外したばかりのマジックミラーを脇に置く際、左手の小さいそれに、ふと目がいってしまった。 |
色目夏 |
「辰也!」龍谷辰也、私の彼氏が、変わり果てた姿で奴の左手に乗っている。 その姿は、小さく丸く、手足が無く、頭は緑色で、身体は赤みがかった黄色で、甘そうで酸っぱそうで、、、 みかんだよ!あれはみかんだ!何で私はあれが辰也だと思ったんだ。 あせりすぎだよ、もっと落ち着け冷静になれ私。 |
LeC |
「まあ、まあ。落ち着いてくださいよ」にやにやした表情で奴は、手に持った辰也――もとい、みかんをきれいに剥いて、あっという間にたいらげる。……いや、でもしかし、なんだって私は、そんな突拍子もない間違いを冒してしまったんだろう?……………………。……分かるわけないや。 「ねえ、彼氏知らない?一緒に寝てたんだけど」宇宙人は待ってました、とばかりに答えるが、 「ああ、タ…タツタティタ…龍谷辰也さんですね?」思いきり噛んでるし。緊迫感台無しじゃん。 |
色目夏 |
宇宙人は、一つ咳払いすると、みかんの皮を私に見せた。 …どういう意味なのかさっぱりわからない。宇宙の挨拶か何かだろうか。異文化コミュニケーションだ。私はとっさに右手の親指を立てて相手に示した。 奴に怪訝そうな顔をされた。グローバル化失敗だ。 |
薔薇茶 |
「……あのー、えーっと、そのー、いや、ですから、ちょっと……」突き出した右手を引っ込めるのも忘れて私はさらにあせった。 「…まさか地球にこの謎かけを解ける方がいたとは……今までのご無礼、平にご容赦ください」と思ったら宇宙人はいきなりかしこまって私の前にひざまずいた。 え?何?私、何かした? |
薔薇茶 |
「このきれいに剥いたみかんの皮は太陽の象徴。あなたはそれにサムアップで応じられました」ああ、確かに拡げたら太陽に見えないこともないけどさ、みかんの皮。 「あなたをタ…タツタティタ…龍谷辰也さまの正式な妻と認めます」 は?…っていうかまた噛んでるし。いやいやつっこむところはそこじゃなくて。 |
色目夏 |
「はいはい、めでたいことね。そんなことより、辰也はどこにいるの」 セイシキナツマとかいうこいつの宇宙語には適当に相槌を打って、私は話を進めた。 「はい、めでたいことです。今、辰也さまは、立滝神社にいらっしゃいます」 私の質問と一緒に相槌にも宇宙人は答えた。 神社?そうだ、初詣に行く約束をしたんだった。先に一人で行ったのか、あの祭り好きめ。 |
LeC |
まあ、それなら私もそこに向かうとしようか。じゃあ今から身支度を整え―― 「ちょっと、いつまでそこに居んの?」宇宙人は意味が分からないようで、きょとん、としている。私が説明してやるしかないようだ。 「いまから身支度したいから、部屋から出といて、って言ってんの」「私のことはお構いなく」 ……だからそういう事じゃないって。まあそんなこんなで、部屋から追い出したわけだが、 「そういやソッチは、この後どうすんの?」 |
薔薇茶 | 「私は母星の親善大使として、この婚礼を見届ける義務があるのです。確かに私はあなたを辰也さまの正式な妻と認めました。が、あなたはまだ第一の課題をクリアしたにすぎません。あなたが全ての課題をクリアし、見事に生き残って初めて、我が星の王妃と認められるんですから」ドアの向こうでさらりと恐ろしいことを言う宇宙人。そういや辰也っていったい何者……じゃなくて、ちょっと待て!今、『生き残ったら』って言った? |
薔薇茶 |
「どういう意味よそれ!だいたいね、私はまだ結婚する気なんか全然ないんだからね!」 「え、何故?あなたは先ほど私の問いにサムアップで答えられたじゃないですか。しかしそうなると困ったことになりますね…すでにこの星の衛星軌道上には母星の主力艦隊が集結していますし」って脅しかよ!もしかして、地球の未来は私にかかってるってこと? |
LeC |
……にしても、なんで私の結婚――星の王妃になるかどうか――に、この星の命運がかかっているんだ?別に機密保持のためなら、私と他数人を黙らせれば何とかなるだろうに。っていうか、NASAなり何なりが主力艦隊を見つけてしまったら、妃どころの話じゃなくなるだろうに。 「聞きたいんだけど、なんで主力艦隊まで出て来たわけ?妃一人が決まらなかったら星を滅ぼすってのも、なんか納得いかない話だし。他の人を当たればいいじゃん」 |
色目夏 |
「他の人では駄目なんです。あなたでないと」いっそうまじめな顔で宇宙人は言った。 「なぜなら、あなたは我が星の伝説の姫だからです。その証拠に、あなたの左肩には、生まれたときから刻印されているアザがあるはずです」 なっ!私は思わず私の左肩を見た。そう、そこには生まれたときからの奇妙なアザが… 「ないわよ!そんなもん」宇宙人が舌打ちする音が聞こえた。この野郎。 |
薔薇茶 |
私は勢いよく部屋のドアを開けた。残念ながら宇宙人には当たらなかったけど。かしこまって立っているそいつを無視して私は玄関へ向かう。 「それでは御武運を。そこを出てから立滝神社までの7つの試練をクリアして無事にたどり着くことが出来れば、婚礼の儀は終了です」ああそうですか。で、玄関を開けたら、そこに大家さんが立っていた。…見なかったことにしよう。玄関のドアを閉めた。 |
薔薇茶 |
その前に大家さんがサンダル履きの足をドアの隙間に突っ込んできた。スジもんかあんたは。 「あ、どうも……明けましておめでとうございますぅ。大家さんもお元気そうで……」 その顔を上目遣いに伺いながら挨拶する。その目線の先にには……宇宙人がぼけっと突っ立っていた。 |
薔薇茶 |
「あ?!…あの、これはですね、そのー」慌てて自分の体で遮る。大家さんは黙って三白眼を私に向けた。怖い。だいたい、ここに来てからこの大家さんの声を聞いたことがないんだよね。 「第一の試練襲来ですね。この先まだ6人の敵がいるんですから、早く突破してくださいよ」宇宙人がすまして言った。マジ?私的にはいきなりラスボス?って感じなんですけど。 |
たねっち |
ていうかおい!しっかりしろ私!こんなのが試練なわけ無い相手はただの大家さんだよ! というか試練って何だよ妻って何だよ儀式って何だよ!結婚なんかまだしないよ!そりゃ将来的には私だって…いやいやまあそれはおいといて。 「ええと、用事があるので、行ってもいいですか」 そういうと、大家さんは不満げながら横にどいてくれた。当然だ。彼女はただの大家だから。 |
LeC |
で、第1の試練?は呆気なく突破できた。まあ、奴の言う事なんて、あんまり真に受けちゃいないけど。さあ、早く辰也のもとに――って! 私は派手に転倒した。視線の先には青空。その上に大家さんの顔――がぼやけて見える。何コレ、脳震盪でも起こした?そういや頭がズキズキする。かなり派手に頭を打ったみたいだ。まあ、下が土だから、この程度で助かったけど。 頭の中大騒ぎの私を見据えて、大家さんは嫌味ったらしくこう言った。 |
色目夏 |
「これが、嫁?」初めて聞いた大家さんの声は、割とハスキーな色っぽい声だった。 「立たないのかい?」起こしてくれるかな、という淡い期待を壊された私は、 横の洗濯機につかまりながら、何とか自力で立ち上がった。隣人皆他人。都会の人間は冷たいなあ。 「じゃあ失礼します」大家さんにそう言って、痛む頭をさすりながら私は神社へ向かい始めた。 |
LeC |
しかし次の瞬間、またも派手に転倒する。視線の先には――以下略。そんな事言ってる暇はない。 「これが嫁?」何だって?まさか辰也のお母さんとか?そもそも何で私はこんなに転倒してるんだ?いやそれは明白だ。大家さんが私の腕とかパーカーを掴んで――じゃあ私に何か用があるって事か? またもや頭の中大騒ぎの私を見据えて、大家さんはその「用件」を口にした。 |
色目夏 |
「好きな数字を一つ、とっとと言いな」 けだるげに話しかけてくる大家さんの声は、胸が高鳴るほど艶やかだった。わお、セクシー!惚れちゃうかも。 「800ですよ。行ってもいいですか」 乙女のときめきを隠しながら、私は質問に答えた。あ、私、乙女じゃないや。 |
色目夏 |
「800、ね。出来れば理由も教えてくれるかい」まだ行っちゃ駄目みたいだ。 「理由ですか。ええと、、、ここから北極星までの距離だからです。およそ800光年」 大家さんには、とってつけた嘘に聞こえたかも知れないが、これは本当の理由だ。 でも、どうしてこの北極星までの距離が好きなのかは恥ずかしいから言わないし、 この800光年という、実は間違っていたといわれる古い観測距離が好きなのかも言わない。 |
色目夏 |
「行っていいですか」大家さんに聞いてみるが、彼女はむっつりしたまま何も言わない。 行っていいのかな。私はまた神社に向かって歩き出す。今度は腕を引っ張られないし、ころんだりもしない。 「とぼけた子だね、ほんと」大家は、まだ部屋の中にいた宇宙人に話しかけた。 「私が引っ張って転ばせたことについて怒らないし、変な質問にも即答しちまった」 |
色目夏 |
「転ばせる、ていうあなたの意図に気づいてないのかもしれませんね。用があったから引き止めた、ぐらいにしか思ってないんじゃないですか」 「まさか。…でも本当にそうだとしたら、得難い才能だね。人の悪意に鈍感ってのは、姫君としてはいい素質だ」 「ただバカなだけですよ、多分」 |
色目夏 |
この言葉を聞いて、大家はガハハと豪快に笑う。 「それもまあ、悪くないんじゃないかい。…私の試験は、まあ合格かね」 「相変わらず女の子に甘いですね。好みなんですか、彼女」 「お、それは心外だね。確かに好みではあるけども、合格の理由はちゃんとあるよ。先に言った他に、二つほどね」 |
薔薇茶 |
私の頭をくしゃくしゃと撫でながら宇宙人に言う大家さん。 「一つは、好きな数字が800ってこと。あんたも予言の書を読んだのなら分かるだろ。そしてもう一つは……私の次は、確かウルモフ将軍じゃなかったかい?」 「ええ。あの『首集めのウルモフ』です。多分3丁目の煙草屋の前で待っているはず」 …なんじゃその物騒な名前は。大家さんは真顔になって私の目を覗き込んだ。 |
LeC |
「それじゃあ、頑張るんだよ。私が太鼓判を押してやったんだから、中途半端な倒れ方は承知しないよ、わかったね?」 「……は、はい……」鋭すぎる眼光に、思わず足が竦んだ。 「さあ、行きなよ」 しかし。行く前にこれだけは聞いておきたい。 「あの……、何でそんなナチュラルなんです?さっきから、本当イレギュラーな出来事ばっかじゃないですか?」 すると大家さんは、苦笑まじりにこう答えた。 「ん……まあ、日常茶飯事だからね」 |
薔薇茶 |
日常茶飯事、か……いよいよ神社に向かうことになった私はさっきの大家さんの言葉を反芻する。思い返せばうちのアパート、変な人が多い。昨日も隣の飯田さんが口笛を吹きながら嬉しそうに階段の上で座禅を組んでたっけ。ってか今まで何の疑問も持たなかった自分に驚いた。私はいったいどうしたんだろう? そう考えつつ私はポストのところを左に曲がる。あんなことを聞いて煙草屋の前を通るほど私はバカでもお人よしでもない。 |
LeC |
案の定、怪しそうな人物は見当たらない。念のため、後ろの煙草屋をおそるおそる振り返ってみる――と、そこに意外な人物の姿を認めた。 「あれぇ、何で?」そりゃこっちのセリフだ。なんでアンタがこんな処にいるの? どうしようか迷っている私のもとに、龍谷辰也は、足早に駆け寄って来た。 |
薔薇茶 |
私は全速力でダッシュ。当然だ。いくら姿形が辰也だからって、黒いマント着て両手に大鎌持って追いかけてきたらそりゃ逃げるよ。 「…よく見破りましたね。ウルモフ将軍の変装を。さすが王妃候補でいらっしゃる」相変わらず私の後をちょこちょこついてくる宇宙人が言った。 「何あれ?私を油断させて首をバッサリってわけ?っていうか怪しすぎだよあの格好」 |
LeC | 「えー、そうかなぁ?結構似てる自信あんだけっどなぁ……」そういって頭をかく将軍。……だからそういう問題じゃないってば。 「――ま、いーや。じゃあこっからが第2の試練ってわけだよね?うーん、やっぱ彼が選ぶだけあって、なかなか美人さんじゃない?いーよぉ、僕もやりがいがあるってもんじゃん☆」その一言に、私は凍りついた。彼は既に臨戦体制に入っている。それが証拠に、私はすでに、背後をとられているではないか。 |
色目夏 |
「ちょっとちょっと、そう逃げないで。まず立ち止まって僕の話を聞いてよ」 後ろから奴の声が追いかけてくる。もちろん私は止まるつもりは無いし、止まらない。 「聞いてて気持ち悪くならないように、用件はできるだけ比喩的にいうからさ」 そんな用件なんか聞きたくない。走りながら、奴を追い払うためにとりあえず叫んでみる。 「人違いですよ!」 |
薔薇茶 |
それが効いたのか、将軍は急に立ち止まった。もちろん私は止まらない。 「え?そうなの…参ったな。特使が横にいるからてっきり候補者だと思ったのに」当惑したような声が聞こえてくる。さっきから思ってたんだけど、こいつバカだ。 「候補者なら1秒でも苦痛が長引くようにするつもりだったんだけど、無関係の人に迷惑かけちゃいけないね…じゃあ、一瞬で始末しよーっと!」そう言って鎌を投げつけた。 |
色目夏 |
「…!」 ごぎゃんという音がして、目の前のアスファルトに鎌が突き刺さった。 少しおかしいことに、刃でなく、柄のほうが深々と刺さっている。なんだこれはなんだこいつは。 「人違いじゃないです話も聞きますだから少し落ち着きましょう」 このままでは瞬時に消されると感じた私は、光の速さで話し合いを申し込んだ。 |
LeC | 「え?何て?」しかし光の速さ、相手には分からんかったらしい。拍子抜けしつつ、とりあえずもう一度同じことを言う。すると今度はあっけにとられたかのように、怪訝な顔を突き出してきた。――何なんですかこのヒトは。……でもまあいい。とりあえず相手には私の話を聞く態勢になっている。反撃するも示談に持ち込むも、お好きなように、って感じか。――しかしこのヒト、本当に私を殺す気あるんかな? |
色目夏 |
「とにかく、人違いではないんですよ」 反撃の方法も示談の手だても思いつかない私は、一応繰り返してみた。 「確認ですけど、それはあなたが達也さんのお嫁さんで間違いないということですか」 「うーん、それは違うんですけど、でもあなたが用事があるのは多分私です」 相手が首をかしげた。少し言い方がまずかったか。 |
色目夏 |
目の前の男(アシモフだったっけ?)がしゃがみこんでぶつぶつ呟いている。 「…僕が用事があるのは辰也さんのお嫁さんで、あなたはお嫁さんではなくて、でも人違いではなくて…」 いくら私を殺そうとした相手とはいえ、指の爪をかみながら目を血走らせて悩む姿は少し気の毒な感じがした。 |
薔薇茶 |
「あの…」一歩近づいた私の耳に男の言葉が入る。 「お嫁さんならすぐに殺しちゃ駄目で、お嫁さんじゃなかったらすぐに殺してよくって…」おい、どっちにしても殺すのかよ。そのまま三歩下がる。それを見た男は立ち上がって吠えた。 「うおぉぉぉ逃げるなあ」鎌を私の脳天めがけて振り下ろした。鎌が迫ってくるのがスローモーションで見えた。まじやばい、と思った私は思わず目をつぶる。 |
薔薇茶 |
ドガッという音がした。そして静寂…。目をつぶったままの私は、まず自分の頭を手で触った。鎌が突き刺さったりはしてない。ほっとして目を開けると、そこにはなんと! 「…大家さん?!」私の目の前には大家さんの背中があった。大家さんは右足を大きく上げていて、その木のサンダルの厚底には大鎌が食い込んでいた。いったい、いつの間に? 「しょうがない子だよまったく。けど、これで第二の試練は終了。あんたは先に行きな」 |
薔薇茶 |
「なんで邪魔するの?!あんたの出番はもう終わったじゃん!」男はわめいた。 「いいんだよ。第二の試練は理屈の通じない敵をどうするかってことだろ。仲間が助けに来た、立派な模範解答じゃないか。それよりウルモフ、あんたいつまで辰也さまのお姿を借りてるんだい?あいかわらず不敬な奴だね」大家さんが足を振ると、その勢いで鎌が抜け、男は後ろへつんのめった。 「あ、そういうこと言うわけね。じゃあ、本気だしちゃおっかな〜」 |
色目夏 |
表情が厳しくなった大家さんに、ウルモフが続ける。 「だってそっちが悪いんだ。そっちがルールを破ったから、僕だって…」 うーん、騒ぎの中心から離れて、落ち着いてウルモフを見ていたら、なんとなくこの場を切り抜けられそうな方法が思いついてしまった。 でも、失敗したらマジで即死だ。この思いつきに私は命を賭けられるのか? |
色目夏 |
…よし、悩みタイム終了。結果発表します。 思いつき やってもやめても 死ぬのなら 賭けてしまおう 私の命。我ながら名歌だ。 ということで、私は全力で叫ぶ。 「くぉらぁぁぁ!ウルモフぅ!」 睨みあっていた大家さんとウルモフがびっくりした顔でこっちを向く。 |
色目夏 |
「あんた!自分が何やったかわかってんの!」 私の声を聞きながら、大家さんはきょとんとしてこっちを見ている。 ウルモフも似たような様子だが、私は見逃さない。 その目に少しだけ涙が浮いている。 いける。そう私は確信する。 |
種盛 |
こいつはガキだ。ガキと変わらない。 ガキと相対したときに、大人は弱みを見せてはいけない。 徹底的に、そして適当に叱る。 叱るほうが理由をわかって無くても、叱られたほうは理由を知っているものだ。 要は、アシモフに自分が悪かったと思い込ませれば勝ちだ。 |
種盛 |
「見なさい! 鎌のせいで砕けたこのアスファルト!」 死ぬか生きるか。たまらんねこりゃ。 「これを敷いた人が、どんな気持ちで石を盛ったか、わかんないの?」 わかるわけない。私にもわからない。 |
有 |
だが、それがいい。 私はアシモフを叱り続けた。 だんだん叱るのが気持ちよくなってきた。 |