リレー小説(@掲示板) 1st.stage

過去にネット上の掲示板で行われたリレー小説をまとめました。
第一弾です。(2004年10月 6日(水)10時25分57秒 〜2004年11月22日(月)17時20分23秒 )
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温羅  事件は終わった。だがそれがすべての始まりだった。
hiro  事件はごくごく小さなもので、一般報道されるようなものではなかったし、ましてや刑事事件でもなかった。私たちは、この細やかな「事件」のあと、しばらく交流を断つことになる。それが何故かは、私には解らなかったし、おそらくほかの皆も同じであっただろう。
龍胆  しばらく交流を断ったことで、過去のこととして忘れかけていたあの「事件」に、我々が再び、しかも意外な形で関わることになるとは思いもしなかった。きっかけはある日突然訪れた。運命の日の朝、私は
ベルリンの赤い雨 ひどく寝坊をした。さんざん眠って、私は夢を見た。起きたらあばらが折れていた。
nicori 「漫画か小説みたいだな」と自嘲気味につぶやくと、私は病院に向かった。
 病院についた私は胸の痛みに耐えながら、順番を待った。10分後に呼び出しがかかった。
「私さん。2番診察室にお入りください」。
NOA 「…」
「私さん いませんか?」
「…あっ はい!」
 私はいつのまにか待合室で眠っていたようだ。寝不足なのかもしれない。
 目をこすりつつ2番診察室に向かった。
木蘭  2番診察室に入ると、メガネをかけたひげづらの医師が私を出迎えた。
 その顔を見た瞬間、私はあの忌まわしい「事件」の事を嫌がおうにも思い出さずにはいられなかったのである。
むー  私は、あの「事件」で左手を負傷し、大手術をうけていた。今、目の前にいるひげづらの医師こそが、その時の執刀医であった。「私さん、やはりあなたでしたか。珍しい名前でしたから、もしやと思っていたのですよ」医師は、柔和な笑顔を私に向けた。
龍胆 「その後左手の調子はいかがですか?」と問う医師の言葉に、もう完治したはずの左手の古傷が疼いたような気がして、私は反射的に左手を押さえた。忘れかけていたはずの記憶が蘇ってくる。あの「事件」の日、私は仲間たちと
hiro ともに、ある場所に行っていた。しばらくして、私はひとり仲間と離れて行動したのだが、そのほんの僅かな間に、私は左腕を切断されてしまった。「刑事事件ではない」と以前に言ったのは、
豊吉 そう思いたい、という私の願望も込められているのかも知れない。その日、仲間達は少しおかしかった。一人が突然リンボーダンスを始めると、
OID 続いて不快な回転運動をはじめた。そして私がその奇行に気をとられたとき突如別の仲間、もっとも親しかったはずの私の友人に背後から腕を切りつけられた。
パリはマティーニの雨  そのときは全て悪いのは全部君だと思っていた。狂っていたのは君なんだって。
 しかし、もし、あのときに腕を君が切っていなかったならば、もしかするとこの世界は終わっていたかもしれない。
木蘭  なぜなら、私の左腕は、その時まさに核爆弾発射のスイッチを押そうとしていたのだから。
 そう、狂っていたのは私だったのかもしれない。今はそう思う。
hiro  私は、過去の出来事を少しずつ反芻するとともに、すこしずつ疑問が浮かび上がってくるのを認識した。……たとえば、なぜ、そんな平凡な場所に、核爆弾発射のスイッチなる、非常識極まりないものがあったのか?他にもある。
豊吉  人々は何故ベストを尽くさないのか。
hiro  しかし結果的には、捜査官の怠慢ゆえに、私たちは普通に暮らせているのだから、そこは感謝すべきだろう。……さて、考えるべき事ができた。この診察が終わり次第、「現場」に向かうことにしよう。どんな場所だったか、頭から記憶を探り出す。……そう、たしか
龍胆  町外れの廃ビルの一室だった。「事件」の直前に、その廃ビルの地下で怪しげな取引が行われている、という外部からの情報が我々の「本部」に入ったのだ。結局、その情報自体はガセだったのだが。「それで、今日はどうされました?」医師の言葉に、私は
NOA  周りに看護婦がいないことを確認してささやいた。
「ひとつ頼みがあるのですが。」
F・クラーク 「私の体はどのくらい持ちますか?」
 そう、あの事件以来私の体は夢に蝕まれていた。夢を見るたび体が傷ついてゆく。
 今回はあばら、前回は肩甲骨、前々回はまつ毛、そしてその前は
色目夏  右手小指の爪。回数を重ねるごとにだんだんひどくなる一方だ。
 そして、夢が私を傷つけるたびに、私の失われたはずの左手の感覚は鮮明になっていく。
 おそらく、私は今、左手に、左手の影に、食われつつある。
長崎は今日も雨 「私さん、そろそろ僕にあの廃ビルの中で何があったのかをお話いただけないでしょうか。」それを話さないことには僕も根本的な治療のしようがない。このままで行くと、あなたの命はあと一ヶ月も持たないでしょう。」ひげの医者は私に言った。僕は決心して、あの狂った一日のことを
マグロマル 語り始めた。
「地下には大麻が詰められた木箱がありました。ですが一向に売人が現れる気配はなく、取りあえず本部に連絡をとろうと私が携帯電話のボタンを押そうとした時です。ある捜査官が突然リンボーダンスを始めたんです。自分の目を疑いました。そのうえ気持ちの悪い回転運動まで
OID 始めました。その不快さといったらあたかも油で揚げられるナマコの様でした。あなたも実際に見てみれば分かるでしょうがあれはもう人間の稼動範囲の限界を超えてましたよ。実に不快でした。
赤だしと酢 私はてっきり彼が何かクスリをやっているのだと思いました。大麻どころではない何か。彼はうっすら笑っていましたしね。
ミシェル しかし私は気付いたのです。そのダンスと回転運動で、彼が核融合を遅らせようとしていることに!彼は身体をはって私達人類を救おうとしていたのです。その自己犠牲の精神には、虫酸が走りました。
hiro ……え、虫酸が走る?ええ、決して誤用ではありませんよ。なぜなら彼のその行動は、根拠などない、迷信の類だったのですから」
 医師は少し首を傾げた後に、先走り気味に言う。
「話の筋が少しおかしいですね。あなたがスイッチを押す前から、どうして核融合が進行していたんですか?
ロンドンは霧の雨 そもそも何故核融合が進行中だとわかったのですか?僕は専門分野じゃないので良く知りませんが、目に見えるものなんでしょうか?」
 そう言われればそうだ、私は何故、あれが核の装置で、しかも核融合中だということを知っていたのだろうか。私の記憶には瑕があるのでは
NOA と思ったとたん目の前が暗くなり
マグロマル  世界は核の炎に包まれた。
 でも私はあきらめない!たとえ伏線なんか一つも無くったってこの状況を何とかできるはずだ!
 私が本当の主人公なら!!
hiro  ……ん、伏線?主人公?なんだかメタ小説みたいだが、しかし何故そんな考えが頭を過ってしまったのだろう?まあよい、話を続けよう。さっきはついつい焦って「世界は核の炎に包まれた」などと言ってしまったが、某漫画のような悲惨な状況になったわけでなく、光は所詮マグネシウム発光
色目夏 でしかなかった。つまり、この光は花火だった。花火。そう、花火。
 今、私は川原で花火を眺めていた。またか。また、私は戻ってきてしまった。
 始まりの場所、始まりの時点。あの事件は、いや、全てはまた、ここから始まる。
ミシェル  もうずいぶん季節外れになってしまった。肌寒い夜、誰かがジャケットを着せかける。
「やっと思い出しましたか?」「お前は…!」
 それはあのひげづらの医師だった。周りはリンボーダンス。ここはパラダイス。うほ
hiro うには私がいる。そしてその後ろには、私の左手を切る前の君。そして、リンボーを見ながら笑う彼ら。その一部始終を俯瞰する自分と、左手を失った私の肩に手を掛ける彼。……幻覚を見ているのか?……いや、ここにある情景は、まぎれもなく現実のもの。
マグロマル  しかしそれも過去の話だ。私はあの現場に行かねばならない。
「失礼します」
 私は事件で義手になった左手を突いて立ち上がった。
「事件のことは私にもよく分かっていないんです。これからそれを調べに行かねば」
「私も行きましょう」医師は言った。
「午後の診察はいいんですか?」
赤だしと酢  医師は無言で、しかし少し悲しそうな顔をした。
 私は、彼はもう病院に帰ってこないつもりなのかもしれない。
 医師は私のカルテをポケットにねじり込んで、行きましょう、と言った。
 あー、でもまだあばら痛てーなー。
NOA 「まあ、なるようになるか。」
 私は、乗ってきた医師を助手席に座らせ病院の門を抜けた。
 門を抜けたら雪国だった。
緑の丘  雪・・・か。私は雪に関しても良い思い出が無い。
hiro 「おや、今度はデジャ・ビュですか?」医師は少し表情を緩める。
「まったくあなたには、いつも驚かされますよ」……私が精神的にかなり不安定なのは、自覚している。しかし気になるのは、さっきの医師の発言だ。
「何故デジャ・ビュだと言い切れるんです?
墓堀人 もしかして、僕の思考また漏れてます?」
マグロマル 「そりゃもうだだ漏れですよ」
hiro ……そうなのだ。私は雪など、生まれてこの方一度だって見たことがないのだ。……さて、そうなるとひとつの疑問が浮かび上がってくる。私の頭の中は、いったいドウナッテシマッテイルのだろう?恐る恐る医師を見ると、彼はやさしく微笑み、私に
緑の丘 こう語りかけてきた。「私にはあなたの考えや思いが手にとるように分かりますよ。あなたは今不安で発狂しそうになっている。しかし心配する事はありませんよ」
マグロマル 「そろそろ到着のようです」我々の行く手に現場の廃ビルが見えてきた。医師は私の肩に手を置いて言った。
「さて、行きましょうか。あなたの記憶を取り戻しに」私たちは地下への階段を降りていった。そこで待っていたのは、
hiro あの時のメンバー全員だった。何故か私もそこに居る。私も?――途端に私は思い出す。私には、自分の思考・記憶を可視化できるのだと。ただ時々、アクセスがちぐはぐになり、コミュニケートが少しズレた印象を持ってしまうのだが。「思い出したみたいですね」
HHH 「さあ、ゲーム開始です。」
医師がそういうと、私の見ている私達が動き始めた。
緑の丘 「あー、リンボーダンスが、狂宴が始まる」思わず目をそむけてしまった私に
マグロマル 医師が声をかける。
「我々も踊るんです。そうすれば何かが見えてくるはずです」
「えっ」
「何をしてるんですか。さあはやく」
 私たちは映像にあわせて体を動かし始めた。臨界点を突破した私たちは時を越えた。私は左手を斬られる寸前だった。しかし今は医師がいる。そのことで何かが変わ
色目夏 るかもしれない。変えられるかもしれない。
 瞬間、私は、私の左手を切り落とそうと迫るナイフを払いのけた。
 そこで唐突に私は気づいた。あの「医師」は、私の「意思」だったのだと。
色目夏  あの「医師」が、私の過去を知ろうとしたのも、この廃ビルに来たのも、過去に干渉しようとしたのも、すべては私の「意思」だったのだと。
 そのことを悟った今、もはや医師はこの場に存在しなかった。ここからは、私一人だ。
ミシェル  さみしーなー。
 だがここまできた以上たとえ一人になろうとも私は為すべきことを為さねばならない。
 私は今度は自らの意志で、左手の核のボタンに力を込めた。
hiro  「……しかし待てよ?」そこである考えが、私の頭を過る。今までの情景は、全て私の「能力」によって、可視化された思考(もしくは記憶との混合体)であったはず。つまり私がここで核のスイッチを押そうが押すまいが、私の記憶が変わるだけで、現実にはなんら影響を及ぼさないはずだ。
木蘭  いや、本当にそうなのだろうか?
 世の中、やってみないとわからないものである。
マグロマル  世界は核の炎に包まれた。
JILL  今度は花火などではない。
 現実に
色目夏  起きてしまった。
 まぶしかったので、私はサングラスをかけた。
 だが、それが間違いだった。
F・クラーク  世界は暗い闇に包まれた。
hiro  私は狼狽した。あり得ない、こんな事はあり得ないはずだ。これは死ぬ前にゆっくりと見えるという、アレなのか?それとも私の思考が暴走しているのか?そもそも何故私は核など持っているんだ?捜査官はどうした?そもそも私は何者だ?どうしてここにいるんだ?
豊吉  その時だった。『ゾーーーーーーーーーーーン!!』
 という怪しい声と共に赤髪の男が現れた。
OID  私は逃げ出した、しかし回り込まれてしまった。
 赤髪は不快な回転運動を始めた。
 私は566の
マグロマル コードを入力した。電子音が鳴る。CONPLETE!
色目夏  やったぞクリアだ!
 私は嬉しくなってサングラスをはずした。
 目の前に広がっているのは焼け野原だ。
木蘭  さすがは対放射能用サングラス。
 それにしても、これは現実なのか、過去なのか?
 だがなんとなく本能的に解かる。これは紛れも無い現実、そして現在なのだと。
 と、理解すると同時にあばらが鈍く軋み始めた。
責任は俺がもーつ(笑)  あまりの痛さに一度目を閉じ、再び目を開けると・・・・・いつものベッドの上だった・・・・。
 って、もしかして、このパターンは!!このような場所では結構嫌がられるあのパターンなのか?そうなのか?
うーんほんとに誰も書き込んでない 「なんですか?これは。新連載の一回目の最初がこんなことで読者は納得するとでも思ってるんですか?桐角(きりづの)さん。」
「そんなこといわれてもねえ・・・。書けといわれたから書いている
ここからどうなっちゃうんでしょ わけで……。綺麗な作品なんて書けないから、思いついたものを継ぎ接ぎしてるんですよ。それに予め言っていたでしょう?今回はラジカルな路線でいくって。あ、そうだ、ここで読者に挑戦状でも叩きつけてやりましょうよ!それを参考に第2話を作るんです。ね、いい考えでしょう?」
トリビアみたかね 「まったく。江戸川乱歩じゃあるまいし。落ちが思い浮かびませんでしたって、誌面にのせるわけにはいかないんですから。」
むー 「では、こんな展開で…。この後、みんなは秘密を解くためにある山に向かう。しかし、雪で往生して、何とか発見した山小屋で過ごす。一夜明け、起きてみると、医師が首を刃物で切られ殺されていた。誰もそんな凶器を持って来てなかったし、小屋にもなかった。
色目夏 それどころか実は小屋さえなくて、医師もいなかった」
「そうやってむちゃくちゃにつなげるから駄目なんですって」
 私はベッドの上から、焼け野原の上でちゃぶ台をはさむ二人を見ていた。
偽・徳山惇一 「ちょっと待って!先程の状況下での解決を思い付きましたよ!……えっ、それを教えろって?桐角さん、少しは自分で考えてくださいよ。――さあ、リレー小説執筆者の各位に、いまここで挑戦状を叩きつけます!犯人は誰か?そして、凶器の謎は?」
色目夏  ちーん。電子レンジのなる音で、僕は物語の世界から現実へ帰ってきた。
 ピザがおいしそうに焼けている。レンジでピザを焼く間、暇な僕はそれを見ながら物語を作っていたのだ。始まりは、ピザの上のピーマンが廃ビルに見えたことからだった。
hiro 掲示板に「リレー第75番」の記事を投稿する。ハンドルは「色目夏」。投稿し終えて時計を見ると、もう開診の時間が近い。既に何人か待合室に通しているが、その中の一人に、僕は目を惹かれた。その女は以前僕が義手の手術を担当した患者であった。苗字は「私」
hiro だったと思う。何人目かに彼女を診察したが、彼女の言う台詞は、あのリレー小説内での独白そのものなのだ。僕は衝動にかられ看護士に、休診するよう頼んだ。そして廃ビルで彼女が何やら――リレー小説通りのことだろう――考えている内に、探偵に「桐角」につ
hiro いて調べるよう依頼する。桐角はこの世界にどう関わっているのか。探偵との通話を切った途端、隣の部屋から爆風と高エネルギーが噴出してきた。僕は跡形もなく消し飛んだ。しかし意識はある。目の前には2人の人物。一方が他方に「桐角さん、少しは自分で……」などと言っている。こいつが桐角!どうやらこいつの小説通りに、僕達は動かされているらしい。僕は幽体なのかを、足元の小石に手を伸ばして確認する。掴んだ!ならば大丈夫、僕は彼の首を絞めることができる。しかし彼へと足を踏み出したその時、誰かが僕の肩
BELL に手を置いた。「私」だ。手には力がこもっている。
 彼を殺そうとする僕を止めようというのか。
hiro  彼女は僕に言う。
「待ってください。他に方法があります」
「どういう事です?」
「この状況…、話の内容も、彼の原稿も、リレー小説そのままですよね?しかも小説には続きがある」
「つまり次には、僕が書いた通りに、あなたを診察した時間に戻るわけですか?」
hiro 「おそらくは…」
「しかし、どうしてそんな考えに至ったんです?」彼女は難しそうな顔をして、こう答えた。
「あばらの痛み、です。普通激痛が走りますよ」僕は首を傾げる。彼女の発言は主観的で、他人を説得するには根拠不足の感が否めないのだ。彼女は僕に、
BELL こう続けた。
「少しずつ思い出してきたのです。私達がなぜこの”仮想世界”にいるのかを。私達はヴァーチャルリアリティの研究をしていました。桐角はその研究チームの主任です。彼はこの世界を自分の思い通りに動かし、私達を弄んでいるのです!」
hiro 「つまりこれは、桐角のゲームだと?」僕は肯定を期待する。少なくとも死んだよりはマシに思えたからだ。彼女は熱を込めて、さらに続ける。
「そういう事です。しかしゲーム感覚でやってしまった事こそが、彼の失敗だったと言えるでしょう。……話を戻します。
BELL ここが仮想世界であると考えれば、思考を可視化することも可能でしょう。核の炎に包まれても、暗い闇に包まれてもそれは設定にすぎません。生身の人間ではないのですから人間の稼動範囲の限界を超えた回転運動だって起こりえます。本来ならコードを入力すれば
hiro クリアできたのですが、どうやら桐角がプロテクトをかけてしまったようで……。そういえば以前彼が零したんですが、『ゲームといえども、それはひとつの世界だ。小説なら許されるが、RPGやVRなら、メタ的な要素は入れられない』。つまりクリア条件は、この世界にあると思うんです」
むー 「私さん、分からないことがあります。一つはこの仮想世界をプロテクトを解き、クリアする条件です。そしてもう一つ。……何故、あなたは私を止めたのです! 仮想世界であるならば、僕が桐角を殺しても、何ら問題はないはずです!」
BELL 「クリアの条件はまだわかりません。桐角は副業の小説家として、ネタを探すために仮想世界に来ているのでしょう。彼は用心深い男です。私達がこの世界のことに気付いていると知ったらもう二度と現れないかもしれません。彼からクリアのヒントを探りだすまでは
hiro 彼に気付かれないよう行動しなければ……」
つまり、桐角は僕達を監視できるわけか。ひとつ思いついて尋ねる。
「彼が管理者というのなら、その……、僕達の会話も、彼に気付かれるんじゃないですか?」
「いえ、それはありません。容量に余裕がありません
BELL から。まあ、居場所くらいは特定できますけどね。」背後から聞き覚えのある嫌味な声が…
「桐角ッッッッ!!!いつの間にッ!」
hiro  慌てて卓袱台を見ると、編集者らしき男がただ一人、突っ伏したまま静止していた。桐角は静かに言う。
「ぼくを殺したところで、無駄ですよ」
 僕は身震いを抑えながら尋ねる。
「僕等を消すつもりか?」
「ご冗談を……。それでは世界の条理に反します。ぼくは唯、
hiro あなた達が長話をしているもので、もしやと思って様子を見に来ただけですよ。……しかしまあ、脱出法については聞き逃してしまいましたが、この世界の条理を見つけただけでも、充分見に来た価値はあったようですね。……そうです、『鍵』はリレー小説です。
hiro ……それ以上はぼくの口からは言えません。それでは、成功を祈っていますよ」そう言って桐角は、もと来た道を戻るでもなく、そのまま彼方へと去っていった。
 編集者もどこかに行ったようだ。あとには僕達2人と、調度だけが残された。
hiro もはや世界には、それしか残されていない。という事は。
「やれ……って事ですね……」
そして彼女は原稿用紙に、こう記した。
hiro
 リレー第76番 投稿者:私 投稿日:10月27日(水)21時02分21秒

 私たちは遂に、脱出する方法を見つけた。そしてまもなく、この世界から脱出できる。
hiro 「さあ、これで脱出できるはずです。あとは機を待つだけですよ」
 そう言って彼女は、そのままその場に転がり込んだ。僕はぼんやりとそれを見ている。
 脱出できる、という安心感からか、つられるように僕も眠りに就いた…………
hiro  突然目が覚めた。
 ごつごつした所で寝た所為で、背中が少し痛い。
 ……頭がもやもやするが、昨日の状況は、まだしっかりと思い出せる。
 隣を見ると、私嬢が背中を向けて、静かに眠っている。
 僕は彼女を揺り起こし、テーブルにあった食べ物を口に運ぶ。
 結局僕達は、この世界から脱出できなかった。
 しかしここには、全てがある。私嬢――妻の提案で、原稿に何かを書けば、
 何でも好きに出すことができた。最初のうちは失敗もしたが、
 そのうちにコツを掴み、今や自由に何かを出すことができた。
 生きた人間を出すことは遂にできなかった。
 誰かの言葉や行動を原稿に書いてみても、それを完遂すれば、動きを失ってしまう。
 だから新しい社会を作ることは適わず、僕達だけがここに生きている。
 脱出が失敗した、とは言えないのかも知れない。
 ただそれまでに、長い時間かかるかも知れないだけのことだ。
 現に僕達は、いつか脱出できることを信じて、今日も二人で生きている。
 ……ただ、この生活にもそろそろ嫌気がさした。
 全てがうまくいくが故に、ということもある。
 だがもっと重要な原因があるのだ。
 それは妻のことだ。僕はずっと、この世界からの脱出法を考えてきた。
 そしてある方法へとたどり着いたのだが、あろうことか、妻が原稿を隠し持ってしまったのだ。
 妻が言うには、「こんないい世界が他にある?キミは脱出したいって言うけど、あたしは全然理解できない」との事だ。そして妻は、「医師は妻を攻撃できない」 と、原稿に記したのだ。
 僕はその呪文が無効であることを知っている。だから原稿を強奪することもできるのだが、彼女もそれ相応に警戒して、僕を原稿に触らせようとはしない。一度彼 女が寝静まったときに強奪しようとしたが、彼女はすでに対策を施していた。
 「私は眠りを自分の意思でコントロールできるようになった」
 「私は疲れない方法を手に入れた。その方法とは、原稿だ」
 それが防御の呪文だ。それが有効であることは、僕が知っている。
 つまり彼女から原稿を手に入れるのは、至難の業なのだ。
 しかし僕は、千載一遇のチャンスを手に入れた。
 その日僕は、彼女と性交した。
 僕は寝入った振りをして、彼女の様子をうかがう。
 どうやら彼女は疲れて眠ってしまったようだ。
 原稿を仕舞った衣服は、手の届かないところに脱ぎ散らかしてある。
 僕は彼女を起こさないように、息を殺してゆっくりと移動する。
 そしてやっと、脱出するチャンスを手に入れた。僕は急いで、思った文面を紙に走らせる。その文面を書き終えるまでに、解決編を始めるとしよう。
 思えばリレー小説は、このような仕掛けを施すのに最適だった。ふつうの小説では冗長に
 なり、どうしても無駄が多くなる。それを避けるために、様々な工夫がされているようだ。このリレー小説では、文面が3行に限定され、書くのは自然と出来事に 限定される。
 だからこそ桐角の実験には最適な素材と言える。しかしそれでも幅は大きくなり、
 矛盾する事が出てくるかも知れない。だからこそ桐角は、リレー小説とVRの間に、
 ある制限を置いた。それは何か?
 それは「実現する事象は、過去形で書かれた文面と、それに準ずる説明など」。
 リレー小説の制限などを鑑みれば、ほとんどの文章が過去形となる。
 だから今まで、物理学を超越したどんな珍妙な事象でも、実現してきたのだ。
 以上が解決編だ。ならば僕が書くべきこととは?僕はいま、呪文を書き終えた。
 「僕達はこの世界から脱出した」
 ――End――